佐伯剛 写真展 「かんながらの道」@OM SYSTEM GALLERY
佐伯剛さんの写真を見に、新宿のOM SYSTEM GALLERYを訪れた。
佐伯剛さんは「風の旅人」という、自分の中で伝説となっている雑誌の編集長であり、その鋭い審美眼と本質的な追求は、自分は最も信頼しているお一人だ。
佐伯さんは、「風の旅人」時代にも多くの素晴らしい写真家を紹介されていて、私も写真の眼が開かされた。写真がすごいだけではなく、編集の妙が佐伯さんの凄さでもあった。編集者でもあった佐伯さんが撮る写真はピンホールカメラだ。
ピンホールカメラは通常のシャッターを切る写真ではなく、場に行き、写真の穴を開いて光を取り込む。光を介して空間が像に焼き付くのを数秒や数分待ち、そこで光の穴を閉じる。どういう像がとれているのか、ネガを見て見ないと分からない。本当に不思議だ。カメラにはレンズすらなく、光の穴しかない木製の箱なのだから。
レンズもファインダーもないので、通常の写真とはまったく意識の使い方が違う。空間の感じ方も違う。実際、光が小さい穴からどれだけ入って来るかによって写真の像も変わる。曇りの日、晴れの日、風や雲、湿度や温度。あらゆる要素で映る像が異なる一期一会とか言えない日々が写真に変換されたと言ってもいい。
現地で実際の写真を見てとにかく驚いたのが、山や岩などの固体物だけではなく、その空間に存在する液体や気体が同等の価値と存在感を持って写真に映し出されていることだった。
だからこそ、この世界で固体として、塊として、止まったものとして存在しているものが、いかに希有かと。そして、この世界は流動的でうつりゆくものに満ち溢れている、ということを感じさせる存在感が放っていた。
私たちは日常でも視覚や脳の機能などの人体の制限に影響を受けていて、実はリアル世界を認識できていないのかもしれない、とも。
流れゆく水、生きた人間が自然界でどういう存在なのか、そして空間に満ちている水分子が光との相互作用で確かに存在していること。そうした事実がピンホール写真から感じ取れたのは驚くべきことだった。私たちが空間で気配として感じられるものは、一瞬も留まらない流動的なうごめきを感じているのだ、とも。
聖地の闇で咲いている花の写真も、まさに植物の生命が光として放たれていた。目に見える物理的な花というよりも、その奥に存在している生命エネルギーのようなものが写真の中に映し出されていたことにも驚いた。
佐伯さんは、写真家ではなく編集者とご自身でおっしゃられているように、写真そのものだけではなく、全体の展示の構成なども、佐伯さんなりの感覚と意味が含まれているだろうと思いつつ、意図を読み解きながら全体の写真のバランスを見て行くのも見る側にも楽しい作業だった。
聖地や神社仏閣と言われる特別な場を、古代の人たちの視点だけではなく現代人や未来人の視点を重ね合わせられていた。聖地がひそむ境界性と、現代の中に潜んでいる境界性。そうした境界にこそ、引き裂かれながらもつながろうとするエネルギーが創発してくる。
変化のスピードが大きい現代の中で、あらゆる境界線やボーダー、断層、境目、あわい、そうした異世界をつなぐ場所に居続けることで、両者をつなぎ合わせることができるだろう。だからこそ、自分も容易く現代に適応せず、感じている違和感をこそ大切に保ち続けたい。
ぜひ実物のピンホールカメラの写真も見てほしいし、風の旅人の次に佐伯さんがトライしている「かんながらの道」のシリーズも追いかけてほしい。
自分が医療の世界から一歩距離を取り、エネルギーが噴出する場としての湯治場を治癒が起こる根源的な場として、実際に訪れている。佐伯さんが追求されようとしている世界が自分は医療と本質的に近い気がしている。あまり時代の動きに惑わされないよう、より本質的なことを自分なりに探求し続けていきたいと、改めて思い、勝手に勇気づけられた。
佐伯剛 写真展 「かんながらの道」
■期間 :2025年2月6日(木)~ 2月17日(月)10:00 〜 18:00 最終日 15:00 まで 入場無料 ※休館日2月11日(火)・12日(水)
■会場:OM SYSTEM GALLERY(旧 オリンパスギャラリー東京)
●かんながらの道 〜日本の古層 vol.5 〜









Comments