映画「僕が跳びはねる理由」(原作:東田直樹、監督:ジェリー・ロスウェル )
海外で制作された東田直樹さん原作の映画「僕が跳びはねる理由」ですが、4/2金曜から(国連の「世界自閉症啓発デー」のようです)日本上映が決定しました。
自分も、この映画へのコメントを提供しています。
稲葉以外に、
・荒神明香さん
・岸田奈美さん
・栗原類さん
・原一男さん
・原日出子さん
のコメントもお読みください。
東田直樹さんに関しては、
●稲葉俊郎「いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ」(アノニマ・スタジオ、2017年)
でもご紹介していますので、その一文を。
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東田直樹さんという作家がいる。彼は自閉症の方だ。
人と会話することができない。
奇声や雄叫びのような言葉が飛び出てくるので、初めて接する人は驚くし、どう接すればいいのか分からないかもしれない。
自閉症の人は、そのように他者とのコミュニケーションの通路が閉ざされているかのように見えるからだ。
ただ、東田直樹さんの著作を読んで改めて気付かされるのは、自閉症の方を含め、何を考えているのかわからない、と思われていた人が、実はとてつもなく深く豊かな内面世界を持っている、という事実だ。
外側へと意識が向かいやすい現代社会の中で、病気や障害のせいで内面へと意識を向けざるをえなかった人たちがいる。
ただ、その豊かな世界をうまく表現する手段がないため、外側から見ているだけではその人の奥深くに潜む豊かな内的世界は分かりにくい。
そういう意味で、東田直樹さんの存在は貴重だ。芸術や文学や詩というものは、こういう困難を乗り越えて突破しようとするコミュニケーションへの強い意思を基盤として、生まれてくるものなのかもしれない。
誰もが持つ豊かな内的世界を、過不足なく表現する手段を求めるプロセスとして。
それは結果的に「生きる」プロセスともなる。
日々を創造的に生きる、ということと同じことだ。
人は異なる1日1日が平等に与えられ、日々発見と創造をくり返す。それはすなわち「生きる」ということであり、その中でもがきながら紡ぎ出すものが結果として芸術になり得るのだ。
言葉は、意識と無意識という異なる世界に橋をかける存在だ。
東田さんの中で異なる世界を結んだ橋は、読む人の内的世界にさえも、見えない橋をかけてくれる。
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他の人から見れば、僕は言葉も通じない知的障害のある気の毒な子どもだったでしょう。
でも、僕自身はかわいそうだと思われたかったわけでも、守られたかったわけでもありません。
ただ、このひとりぼっちの洞窟のような世界から、どうやったら抜け出されるのか、教えてもらいたかっただけなのです。
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意味のない行動を繰り返すこだわりは、僕から自由を奪ってしまいます。
奇声やひとり言も、自分が望んでやっているわけではありません。
人を困らせてばかりいると思われていますが、 実は 、僕自身がいちばん困っていることを、いったい誰が想像できるでしょう。
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自分が話せなかった頃、僕は透明人間のようでした。
確かに生きてはいますが、僕という人間はこの世界のどこにも存在していなかったのです。
今は、自分の思いを伝えることができて、とても幸せです。
僕は、どんな人も、内面というものを持っていると信じています。 それを表現できるかどうかは、その人の努力だけでは、どうしようもないことなのだと思います。
なぜなら、コミュニケーションがとれない人にとって、自分の気持ちを伝えるのは、大きな壁に穴を開けなければいけないくらい大変なことだからです。
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小さい頃の僕は、いつも迷子になっていました 。
どこかに行きたかったわけではありません。 道を見ると歩きたくなってしまうのです。 それが、幸福への一本道であるかのように、ぼくは歩き続けてしまいます。 迷子になるのが、怖いと思ったこともありません。歩いていると、花や木や石ころが僕を応援してくれているかのように思え、うきうきした気分になれます。誰とも会話できませんが、自然はいつでも僕の味方でした。
東田直樹『風になる―自閉症の僕が生きていく風景』ビッグイシュー日本(2015年)より
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当事者の思いを尊重するということは大切だが、意外に難しいものだ。
こちらの価値観や考えや思い込みを押し付けてしまうことがある。
東田さんのような自閉症の方に限らず、すべての人に通じる普遍的なメッセージがここにある。
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時代が大きく動いている今、どんな立場の人でも尊厳を持って生きていける社会とは何か?
そうした社会基盤自体が問われていると思っています。
人が生きる、人が共に生きる、ということに関して、色々な想像力を与えてくれる映画です(東田さんの原作も!)。 多くの皆様に見ていただければ嬉しく思います。 どうぞよろしくお願いいたします!
→■映画コメント
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●原作:東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)
●翻訳原作:『The Reason I Jump』(翻訳:デイヴィッド・ミッチェル、ケイコ・ヨシダ)
●監督:ジェリー・ロスウェル
●プロデューサー:ジェレミー・ディア、スティーヴィー・リー、アル・モロー
●原題:The Reason I Jump/2020 年/イギリス/82 分/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:高内朝子/字幕監修:山登敬之
●配給:KADOKAWA
第36回サンダンス映画祭 ワールド・シネマ・ドキュメンタリーコンペティション部門 観客賞受賞 第39回バンクーバー国際映画祭 長編インターナショナルドキュメンタリー部門観客賞&インパクト大賞 W受賞 第36回国際ドキュメンタリー協会賞(IDAアワード) 作品賞・監督賞ノミネート 第26回放送映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞撮影賞ノミネート 第43回デンバー映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞受賞 第15回ローマ国際映画祭 最優秀外国語社会派映画賞受賞
作品タイトル:『僕が跳びはねる理由』
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