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武満徹さんとレコード

武満徹さんの音楽。 自分はCDで聴いているときはそこまで良さを感じなかったが、レコード(LP)で聴き始めてからその素晴らしさに心打たれ、何度も何度も聴く続けるようになった。是非レコードでこそ聞いてほしい。 武満さんの音楽はノイズの中に生まれては消えていく水泡のような音の集合体が無限にわいてくる。 幼稚園の子供のように音が自由に無邪気に走りまわる。 音は満ちては溢れてこぼれる。音がこぼれて失われると、自然の法則に従ってまた泉のように湧いてくるようだ。 レコードでは背景のノイズが全部詰まっているが、CDではその音が失われる。これは聴き比べた人ならば絶対に分かる感覚だと思う。デジタル情報としてのCDの存在が得た利点と引き換えにして、失われたのが音の多様性なのだろう。 自分は高校時代にレコード(LP)の響きにはまり、熊本のレコードショップを巡りながら、あらゆる音楽を浴びるように聴きまくった記憶がある。ある音楽家の方と対談をしたが、その後に音楽の記憶が溢れて来た。 そうした若い時期の衝動的な行為は、頭では知的に理解できないものだったが、全身で浴びるような聴き方に意義があったのだろう。 思春期という自分の進む道が漠然としていた時期に、やり場のない、居場所のない思いを昇華するために、自分は音楽と言う通路を全身の行為として欲していたように思う。 ・・・・・・・ 人との会話は必ず交互になされる。誰かが言う、それを聴く、そして別の誰かが言う、というように。 そうすると、どうしても声が大きい人、話が長い人、主張が強い人、、が言葉の場を支配するようになる。 それに対して、音は重なり合うことができる。 音楽は、同時に重ね合わせながら鳴らす事ができる。 その音楽を聴きとる耳さえある限り、その重なり合った音は雑音から音楽への昇格される。 たとえ多くの人に雑音であったとしても、そこに聴きとる力さえあれば、人間が介することで雑音はそのまま音楽になりうるものだ。 音は多様性をこそ前提として成立している。

 
 

『ミニアチュール第1集/武満徹の芸術』というレコードを聞いている。 そこに『音楽における音の神秘』というタイトルで対談がされている。武満さんの言葉の選び方が素晴らしく、おもわずうなる。 ●(音楽とは何ですか) もし私が音楽の何たるかを知っておれば、音楽に専念するようなことはなかったでしょう。 過去、現在を問わず音楽家というのは、その答えを求めてきた人たちのことを指すのですから。 その答えを表現する手段を模索する人こそ音楽家です。 しかし私共にとって音楽を究めたり、音楽とは何であるかを考えたりしながら思索のうちにこもっていくことは音楽を生活から隔離することになります。本来これはそうあってはならないものです。 私は音楽は生活だといいたい。 ともかく作曲家は答える立場の人間ではありません。逆にいつも問をなげかける人間です。 ●(芸術家は自分自身の生活を大事にすべきですか。それともそのようなことは問題ではありませんか) 自分の生き方に専念するのが正しいと思います。 一人の人間としてそうしなければなりません。でなければ私の音楽は死んでしまいます。 このことは非常に難しい問題です。私としては社会主義が好きです。 しかし多くの共産圏において芸術は政治的なイデオロギーの下にコントロールされています。 人びとが単一化を強いられることは私の最も嫌いなことです。 ●(作曲家の個性についてご意見を伺いたいと思いますが) 西洋音楽の場合には私は特に極力独創性とか個性とかいうものに反対する立場をとっています。というのは、自分が主に西洋音楽に関係しているからですが、私は他の人に自分の個性とか所得とかをあまり押し付けたりしたくありません。 私は自分の作品が作者不詳のものになってくれれば良いと思います。人びとは私の音楽に対して自分の好きなように反応する自由をもっているべきです。 私は固定的なアプローチは好きではありません。これはテクニックや手法の門ではなく、私の生き方の問題です。 私の音楽は変化し続けるでしょう。私の思考は常に私に先行しているからそれについていく事ができませんが、思考と自分自身が一緒ではないという事は良い事じゃない。やはり両者が完全に一致していることが自然であるし最良の状態です。それが私の希望する状態です。 ・・・・・ 音は音です。 音は非常に神秘的です。 現在では音がどんどん増えてきており細分化されてきています。 音楽に関して最も重要な作業というのは、新しい耳で聞くことであり、自分の音の聴覚をなおすことです。その音とは耳にきこえる音ときこえない音の両方です。

武満徹:オリオンとプレアデス TAKEMITSU, Toru: Orion and Pleiades

武満徹:ウインター/マージナリア/ジティマルヤ Toru Takemitsu - Winter/Marginalia/Gitimalya

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