ローランド・カーク(Roland Kirk)
ローランド・カーク(Roland Kirk、1935–1977年)という音楽家がいる。
ニーナ・シモン(Nina Simone)と同じくらい、音を聞くたびにいつもしびれる人だ。
ローランド・カークはアメリカのジャズ・ミュージシャンに分類されるが、サックス、フルート、トランペット、オーボエ、ピッコロ・・・あらゆる楽器を演奏した人。
口ではなく鼻でフルートを鳴らしながらスキャットを奏でたり、時には叫んだり、驚かす事を目的としたような音を出す。 身の回りのものを叩いたり踏んづけたりして音を鳴らし、その漏れ出た音を救済するように音楽へ紡いでいく。
ローランド・カークは3歳の時に失明しているため、聴覚世界で生きている人だ。すべての存在を、響きとして感じ取っているのだろう。人間も生命も、善も悪をも、あらゆるすべてを。
循環呼吸で音を出し続けるので、音が途切れない。 音が輪廻転生している様は圧巻だ。
ローランド・カークは3本の管楽器を吹く独自のスタイルを持ち、当時、理解できない人からは邪道とされたり色もの扱いされたようだ。 ただ、特異な演奏スタイルは、彼自身が子供の時に見た夢に起因する。
3歳で失明したローランド・カークは、音の世界に魅せられ、あらゆる楽器に興味を持つようになる。音によって存在を確かめるように。
そんなローランド・カーク少年が、突然不思議な夢を見る。 それは、3本のサックスを同時に吹いている自分自身の姿だった。
彼はその夢を自分の未来地図だと受け取り、猛特訓をし続けて、彼独自のスタイルが生み出されたのだ。夢を生きるために。
アルバム「溢れ出る涙(The Inflated Tear)」(1968年)にも、そうした姿が映し出されている。
「溢れ出る涙(The Inflated Tear)」は、失明の後遺症で普段から涙が止まらなくなる避けられな生理にも起因しているようだが、それ以上に多くのメタファーを含んでいる。 実際、結果的には彼のラストアルバムとなった。彼は自分自身の死すらも、観ていたのだろうか。
42歳の若さでなくなるまで、彼の音楽は時代を先駆けて疾走した。
1972年の映像である「Volunteered Slavery (Montreux 1972)」にも、彼の音楽性がすべて出ている。
●Rahsaan Roland Kirk - Volunteered Slavery (Montreux 1972)
「Volunteered Slavery」というタイトルも、非常に挑戦的だ。 彼は黒人解放運動にも携わっていた。
黒人としての尊厳を保ちながら、奴隷制をも全肯定して生き抜くというステートメント(宣言)のように聞こえる。
この映像では、群衆の中に自分から突っ込む姿が印象的だ。
人間が生きているエネルギーの渦を、響きとして感じているのが分かる。人の渦の熱気を受けとり、それをまた音の渦へとエネルギー変換させながら。
最後、椅子から音を開放するような終わり方もすごい。 これが、彼の奴隷解放宣言のようなものかもしれない。
閉じ込められたものを、音として響きとして開放することを。 真の自立と独立のために。
ローランド・カークは、少年の時に自分自身が見た夢を忠実に疾走した人だ。 彼の音楽や生き様には、人種や時代や国などを超えた、「夢」を羅針盤として人間が生きた、という事実そのものが持つ凄みが強く刻印されている。
●Rahsaan Roland Kirk - The Inflated Tear [Live in Prague, 1967]
●Roland Kirk with McCoy Tyner Stanley Clarke 1975
●Rahsaan Roland Kirk - Live In Norway '67
●Down Beat 1975 poll-winners' show: 'Pedal Up'
●Roland Kirk Serenade To A Cuckoo 1972