遥かなる親指
赤ちゃんを見ていると、ものをつかもうとするが、まだ親指がうまく使えないので、ちゃんと握ることはできない。
親指を曲げて、親指の指先だけを自由に動かす筋肉は、霊長類の中で人間だけが獲得した筋肉であって、赤ちゃんは霊長類の進化の最終段階をOJT(On-the-Job Training)で学んでいるのだなぁ、と思う。
親指を動かす筋肉は複数あるが、この中で前面にある長母指屈筋(IP関節を曲げる)と後面にある短母指伸筋(MP関節を伸ばす)がヒトだけにあって、これが大きな違いを生むのです。(サルは、どんなに頑張っても親指は伸ばす事はできても、付け根(MP関節)しか曲げることが出来ない!)
坂井建雄「人体は進化を語る」ニュートンプレス(1998年)より
このちょっとした二つの筋肉のおかげで(たったこの二つを作るのにどんなに苦労と涙のドラマがあったことか!)、猿手ではなくなくなり(猿は親指以外の指を使って枝にぶらさがってますよね)、親指が小指側に動くようになり(=母指対立)、ものをつかみやすくなった。
そのことで、石器や土器を含めた道具の進歩も起きたんでしょう。今はみんながスマホに夢中になっている。
赤ちゃんの親指使いを見ていると、人類への進化の過程(原猿(ツパイ)→新世界ザル(リスザル)→旧世界ザル(カニクイザル)→類人猿(オランウータン)→ヒト)を追体験している気持ちになる。
必死な親指の動きをみながら、ほ乳類が人間にまで進化してきて、その人間に生まれてきた意味を共にかみしめている。 日々、学ばせてもらうことばかりだ。