「見えないものに、耳をすます ―音楽と医療の対話」(アノニマ・スタジオ)
大友さんとのNHKスイッチでの対談本。
「見えないものに、耳をすます ―音楽と医療の対話」(アノニマ・スタジオ)
ようやく出ます!! 8/31や9/1頃から本屋次第では店頭に並ぶとのこと。
はー、嬉しい。
2017/3/11の放映でしたから、出版までその6か月後くらいと考えると、かなり早いですね。
スイッチの内容が書籍化されるのは極めて珍しいんですよね。しかも、芸能人でも何でもない一般ピープルの自分ですから。要望が大きかったのは嬉しいです。
2011/3/11から2017/3/11、そして今回。 まるですべてが決まっていたかのように。 すべてが導かれるままに、目の前に道が敷いてあるように、水が流れるようにコトが進んでいきました。
元々は、野村萬斎さんのMANSAI解体新書(2016/7/30)で大友さんと共演したことに始まります。
2011/3/11での震災や原発の問題が起きた直後、 自分はほぼすべての土日を東北への医療ボランティアで使っていました。 あえて人に言うのもかっこ悪いしあまり人には言わず。 行きたい!と、心の声が強く叫んだので、自腹でいろんな場所に行き続けたのです(独身だからこそ行けた・・・)
なぜ自腹で行ったかと言うと、水俣病の研究で世界的に有名な原田正純先生(1934-2012年)に、遺言のように直接こう言われたんです。
「自分は水俣病の調査とか、誰にも一銭ももらわんかったばい。
自分は熊大では一生、助教授で終わったばってん、それがよかったとよ。偉くなったら、自分がしたいことばできんでしょうが。自分がしたいことある人は、偉くならなんごつ、努力せんばいかんとよ。
自分も大学院生のとき、水俣の現地に行って衝撃ば受けたとよ。そして、ちゃんと向き合うことば決めたとよ。あんたと同じくらいの年たい。
水俣まで自腹で行っとったけど、医者はその点よかばい。お金がなくなったら、当直でも何でもして、睡眠時間削って必死に働けばなんとかなるけん。
だけん、稲葉君、どこからもお金もらったらいかんばい。あんたの感性でやりなっせ。必ず、誰かが見とるけん。
自分はもう少しで死ぬと思うばってんが、ずっと見守っとるばい」
と。
その1週間くらい後に原田正純先生は亡くなられたんです。
3.11以降、自分の奥底に本気で火がつき、未来の医療のためにひと肌脱ぐことを決めました。 なぜなら、いまだに何も解決していないからです。
エネルギー問題。 医療・健康の問題。 科学と自然の問題。
あらゆる問題は先送りになっただけです。
自分は、未来の人たちに責任を負わせたくないです。
自分たちの世代で、なんとか乗り越え、次の世代にこの世界を手渡す必要があると思いました。
全貌が見えないかもしれませんが、自分は巨大な絵を描いています。 そして、その巨大な絵のためには、ひとつひとつ細い穴に糸を通すようにステップを踏んでいく必要があります。
医療界をよくするには、医療の枠内だけでやっていても、先に進まないことが骨身にしみました。それは、2011/3/11以降、あらゆる医療会、医学会に働きかけて感じたことです。
現代は、人間が「システム」に最も大切なものをうばわれています。村上春樹さんが、エルサレムのスピーチでおっしゃったとおりです(「壁と卵」)。
医学と言っても、それは西洋医学の枠の中だけの話ではなく、代替医療や伝統医療の枠の中でもそうです。どの業界でも同じです。そもそも、枠自体を更新させなければいけない。なぜなら、今の枠内で考えていると、解決しない問題が山積みになっているから。
医療が人間の体や心、魂や命にかかわるものである以上、音楽や芸術や演劇や、あらゆる文化や学問領域、ビジネスや農業、漁業、水産業、林業含め、あらゆる人と協力する人があるのです。
人間は、説得では変わりません。 説得で変わる人は、また他の人に説得されて、別の方向にコロコロ変わるからです。
人は、誰かの後ろ姿や生き様に共鳴することでしか変わらないと思います。 そのためには適切な時期というものがあり、時には待つことも必要になります。
だから、自分は共鳴し、共感する人と共に新しい未来ののモデルを作ることを考えています。 大友さんとは、年齢もやっていることもまるで違いますが、勝手ながら、共鳴する部分が多いと感じています。 10/15(日)にアンサンブルズ東京で共演するUAさんもそういうお一人です。 そういう人たちとは、天からの絶妙なキャストが必ず用意されるのです。
自分は聞く耳を持たない人への説得に時間をかけることはやめました。 この大切な時間を、共鳴する人たちと、まだ見ぬ何かを具体的に作り上げていくことに使っていこうと思っています。
「見えないものに、耳をすます」ように、今まで見てなかったもの、聞こえていなかったもの、関係性がないと思っていたこと、そういうものを再度発見し、新たな関係性を結び必要があるのだと思います。
大友さんとの対談本が最初に世に出るのは本当にうれしい。 この本の内容に共鳴する人が、一人でもいれば、それだけでも嬉しいです。
「見えないものに、耳をすます ―音楽と医療の対話」(アノニマ・スタジオ)の対談本では、 放映された内容以外の対話も入れた第1部に加えて、追加対談の第2部もあります。 民俗音楽や祭りのこと。 新しい音楽の教育のこと。 「死」に関すること。「情報としての死」など。 色々と話していて、自分で読み返しても面白いです。
最後には、それぞれの無人島にもっていきたい本5冊、音楽5枚(レコードセレクション)もあり、お互いに10個の質問を投げかけたものもあります。
是非ぜひ読んでほしいです!!!
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<Amazon 内容紹介> 「あまちゃん」の音楽家と型破りな東大病院医師による、異色の対談集です。今までにない音楽と、あたらしい医療、そしてその先に見えてくる可能性とは……。2017年3月11日に放送され、好評だった「SWITCHインタビュー達人達」(NHK Eテレ)に追加対談・書き下ろしを加え、再構成した書籍版。
<出版社からのコメント> ノイズ、即興音楽から「あまちゃん」まであらゆる枠を超えて活動する音楽家・大友良英氏と、幅広く「医療」をとらえこれからのあり方を模索する、今注目の東大病院医師・稲葉俊郎氏。異分野で活躍するふたりは、お互いに「未知の扉を開けてくれる」存在としてリスペクトし合っています。それぞれの原点、受け取ってきたものや今を形づくっているもの、ふたりの活動にも大きな影響を与えた3.11当時のこと、そしてこれからの果たすべき役割について語り合った記録。お互いに投げかけた「10の質問」や好きな音楽と本のセレクトと解説など、書き下ろしも満載。