東京タワーへの鎮魂として
アンサンブルズ東京。 心の底から尊敬するアーティストであるUAさん。 ワークショップで出会ったみんなと作るLive。
最高だった。 やっている僕らが愉快になって踊りだすような時間だった。
UAさんから、体を感じるようなワークショップをやろうよ!という話をもらってから、ずっとワクワクしていた。 Liveでは「母音」をテーマにした。
母音とは「母なる音」。 あいうえお、うおあえい。 赤ちゃんも出している。 「あー」「うー」と。誰にも教わらず。
そして、単純な割に、きわめて奥が深い。
母音の不思議なところは、多様な異なる声で重ね合わせるほど、音と音とが響きあい、音の場のようなものが立体的につくられ、場自体も膨らんだり、縮んだりすることだ。
前日のワークショップでも、全員がひとつの「輪(和、環)」となり、音の場を作った。
(アンサンブルズ東京の公式写真より)
アンサンブルズ東京の日。 予報も当日も雨だったけれど、僕らの本番の時には小雨になった。
思い切って観客席の中にはいり、マイクを使わず声だけですることにした。 するひと、みるひと、という境界を作りたくなかったからだ。そのことはUAさんと当初から話していた。
「うおあえい」の音の場を螺旋状にたちあげ、東京タワーを超えて天まで届くことをイメージした。その場にいた人はきっと驚いただろう。ただの「あいうえお」が、こんなにも豊かな広がりを持っていることを。
最後は、人間や唄の誕生、そして未来を予感させる曲を。 地球が誕生する。風や光しかない世界。そこにいのちが生まれる。植物や鳥が飛びたつ。そこに人間が生まれる。人と自然は共に音を出す。唄が生まれる。 UAさんの奄美の神歌が聞こえてくる。生声で響く。記憶の奥底のカギを開けるような旋律。うつくしく、それでいてかなしい。陰も陽も含んだ音色。UAさんは、その真髄を余すことなく表現できる唯一無二のアーティストだ。
最後、音はおのずから沈黙の場へ収斂されていく。 大地を鎮めるように。厳かな儀式のように。
東京タワーは、戦後日本の、高度経済成長のシンボルだ。
日本は1945年に敗戦を迎え、自信も信頼もプライドも失い身も心もボロボロになり、ズタズタになった。
ただ、人間は強い。死ぬ気になれば、野生が立ち上がるのだ。 先人は、焼け野が原から、「日本」という国を立ちなおしていった。
日本は高度経済成長を遂げる。 その時に朝鮮特需というものがあった。 朝鮮半島が北と南に分かれて世界のイデオロギー対立の代理戦争となり、1950年から1953年(今でも休戦中にある)まで朝鮮戦争が起きた。このときに、アメリカ軍から日本に発注された物資やサービスでの特需が朝鮮特需だ。
日本は、なりふり構わず戦闘機や戦車もつくり、売りまくった。 こうした朝鮮特需も、戦後の高度経済成長とつながっている。
東京タワーは、その時に大量に作って余った戦車などの軍事機器の鉄を再利用して作られていると聞いたことがある。(中沢新一「アースダイバー」)
そうして作られた東京タワーは、テレビの電波を発信し続け、戦後に絶望した日本人たちへ希望を与え続けた。みんながテレビに熱狂した。
ただ、時代はうつり、東京タワーは巨大なモニュメントとなり、観光客を迎えるだけになり、今に至る。テレビも、見なくなる人が増えた。
自分は、日本の近代化の象徴である東京タワーを見るたびに、時代に取り残されて寂しそうに見えた。
東京タワーは、戦後日本の縮図でもある。
日本を立ち上げた先人に敬意を示さないといけない。 それでいて、近代資本主義や大量生産・大量消費社会の欠点も多く抱えていて、無視せずに乗り越えないといけない。
わたしたちは、次の時代へと舵を切っていくためにも、東京タワーへの鎮魂をしないといけないのではないかと思う。
鎮魂は、まさに生死を扱う医療において重要なテーマであり、同時に芸術においても重要なテーマであると思う。そこにも医療と芸術の接点はある。まさに、異なる世界が協力して行う重要な儀式なのだ。
僕らは、「大量の物を持つことが幸せだ」という仮説を立てて突き進んだ。 確かに多くの恩恵を受けたが、同時に多くの大切なものも失った。
いま、あたらしい未来へと舵をとらないといけない。 東京タワーという戦後日本の鎮魂を、UAさんやワークショップのみんなとつくる音の場でしたいと思った。 それは祈りの儀式になるだろうと思った。
近代資本主義、戦後の象徴としての東京タワーへの鎮魂。 そして、東京タワーという電波塔の下から光の柱を立て、未来の社会を日本中に提案する。 それは「多様性と調和」という未来社会へのひな型として。
そうした深い鎮魂と祈りが、来ていた人にも伝わっていたらいいな、と思う。
実際、本番直前のリハでアメリカ人の方がノリで乱入してきた。誰もが何の疑問もなくそのまま受け入れ、本番もその流れでいつのまにか参加することに。
見ていた人は、外国の人も前日のワークショップから参加していたのかぁ!と思ったかもしれないが、勇気あるノリのいい飛び込みの方なのです。(その後、彼は友人からはぐれてしまったらしく、困っていた・・汗)
すべてを受け入れ、尊重し、多様性と調和を重視する場ができていると、排除することなく調和の道に進むことができる。
音と声により、そうした調和の場をつくり、それこそが未来社会のひな形なのだと祈りながら。
日本の盆踊りも、元々は死者を弔うものだ。 生者の世界と死者の世界とは、年に1回、お盆の時期に接近して干渉しあう。 そうした見えない世界にいる先人たちにも、感謝の念を感じながら、いのちを受け取る。 そういうものがなければ、盆踊りは魂の入っていない仏像のようなものになってしまう。
そういう魂を入れる儀式こそ、わたしたちは音楽や踊りを必要としたはずなのだ。
今回、素敵なみなさんと、同じ場を共有できたことを本当にうれしく思います。頭の記憶としてではなく、身体の記憶として強く刻印されました。 いまでも、体の中が熱く感じます。
UA+稲葉俊郎外にも、 芳垣安洋とOrquesta Nudge! Nudge!
坂本美雨とCANTUS プロジェクトFukushima! 大大友良英スペシャルビッグバンド
みなさんの音を体感しに行きました。 それぞれがすべて全く違う! そして、ほんとうにたのしい!体が勝手に動き出す。 あー、こういう音楽の授業があったら、最高なのに!!!!
音楽の力って、ほんとうにすばらしいです。 雨の中来てくれたみなさん、本当にありがとうございました。 アンサンブルズ東京を支えた関係者の皆様も、ほんとうにありがとうございました!
●UA
P.S.
翌日にはもうすでに(公式?)動画がUpされている! 21世紀すごい! なんとなくの雰囲気が伝わりますかね。 けっこうチャレンジしたよねー。 (ほかの皆さんの動画も出てます。)
●UA + 稲葉俊郎「アンサンブルズ東京」2017.10.15 @東京タワー正面玄関前エリア
P.S.2
UAさんの奄美の神唄「てぃだぬ うてぃまぐれ節」に重ね合わせた声は、つむぎねを主宰する宮内康乃さんに作っていただきました!(パチパチパチー)
本当に素晴らしい誰もが口ずさむメロディーで(いまだにお風呂に入ると口ずさむ)、宮内康乃さんなくしてはこのLiveは成立しませんでした!ありがとうございます!