横浜ダンスコレクション2019「Futuristic Space」
横浜ダンスコレクション2019。
初日は、イスラエル出身の振付家・ダンサー、エラ・ホチルドさんの新作「Futuristic Space」。 現代美術家・大巻伸嗣の「Liminal Air」とのコラボレートでもあり、5人のダンサーが踊る。
事前にホチルドさんと大巻さんのInterviewを読んでいると、それだけでワクワクした。
============ 『Futuristic Space』 振付・演出:エラ・ホチルド 美術:大巻伸嗣 音楽:Gershon Waiserfirer 出演:Daisuke Omiya、Ryoji Sasamoto、Ryu Suzuki、Michal Sayfan、Ema Yuasa 日時: 1月31日(木)19:30 2月 1日(金)19:30 2月 2日(土)15:00 2月 3日(日)15:00 会場: 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール ============
お二人とも芯があり、自身の哲学や神話があり、素晴らしい!
(以下、Interview記事より) ------------- ホチルド:人間はそのような状況(サバイバルモード……つまり戦争しなければいけないような状況)に置かれたとき、大災害などのアポカリプス的な状況より前にあった文化や生活環境に、再び自分たちを結び付けようとする傾向にあることに気付いて。 今作「Futuristic Space」でも、そういった状況に置かれた人たちが、大災害以前の文化や時間を模倣しようとするのですが、そのときにさまざまなズレが生じます。例えば災害によって感情は破壊されているんだけど、喜びとか笑いといった過去にあった感情を真似てみる、というようなことですね。それを今回は描きたいと思っていて、そこでキーワードになるのが時間やタイミングだと思っています。 ------------- ホチルド:大巻さんの作品に永遠の感情を起こさせる何かがあったからです。 ------------- 大巻伸嗣:「Liminal Air」という作品は、東日本大震災以降、物質的な価値や時間的、存在的な価値をどう捉え直すかということを考えて作った作品だからです。 あの1枚の布が持っている時間は、普段私たちが感じる時間感覚とは全然違っていて、別の時間軸の中に存在しているように見えるんですね。つまり、私たちはそれぞれの時間を生きているんだけど、同時にもっと違う次元の、永遠と続く時間もここには存在している。その感覚を、今、エラさんは「自然」と表現したのだと思うけれど、人が死のうが生きようが、何を作ろうが壊そうが、何をしようともせずとも、ずっと変わらないもう1つの時間が根底には続いていて、それが自然の時間なのだと僕は思うんです。 ------------- 大巻:私たちの作品にとって今回一番重要なのは、光と影、つまり光と闇なんです。 ------------- ホチルド:観客の方々には作品の内側に入っていただき、出演者と同じ空間、同じ感情をより深く共有してもらいたいと思うようになって、そういう空間作りができればと思います。 ------------- ホチルド:ダンサーについても、私は動きを探求する中で無重力や光になることもできると思っています ------------- ホチルド:今回のステージではさまざまな情報の洪水があるので、そういった私の世界観に共感してくれる人、オープンマインドな人を選びました。 ------------- 大巻 横浜は関東大震災や戦争を経験し、その過去を振り返りながら現代を作ってきたけれど、次の時間軸が描けないまま、再び閉じた空間になりつつあると感じていて。その点で、赤レンガ倉庫のように歴史もあり発信力もある場所で、もう一度未来へ目線を飛ばしていけるような発言ができればいいんじゃないかと思います。 AIをはじめ人間はいろいろなことができるようになったように感じるけど、実はどんどん、1つのことでいっぱいいっぱいの、多様性を意識して生きられない、退化した人間になっているのではないでしょうか?ということを「Futuristic Space」は問いかけていると思うので、この作品を通してそういった意識を持てる人が生まれてくれたらいいなと思います。 ------------- ホチルド:未来を問うということは、現在についても考えるということだと思うんですね。現代はみんなが急いでせかせかして、感情に蓋をしてしまっていることがある。でも少し立ち止まって自分の感情を感じることが、未来につながっていくと信じています。 -------------
Interview記事を読んだ後、イスラエル出身の振付家・ダンサー、エラ・ホチルドの新作「Futuristic Space」を見に行った。
神話的な時間。かつ、喪の時間、のようなものを体験する素晴らしい舞台だった。
舞台やダンスや演劇は、もともとほかの作品と比較するのが難しい。 そもそも相対的な体験ではなく、常に絶対的で個別な体験として感じられるのが生で繰り広げられる身体表現(パフォーミングアート)・身体言語のいいところだ。
理性をはたらかせる必要がなく、頭を介在せずに身体でダイレクトなやりとりができる。
『Futuristic Space』では、「世界の終わり」のような、黙示録(Apocalypsis)を予感させる挑戦的な作品だった。
天井には現代美術家・大巻伸嗣さんの作品がある。巨大な被膜が天空を揺らめき続ける。それは人類の営みを優しく見守るような太陽や月の運行、満ち欠け、、ような神話的な時間。「流れ」そのものがゆらめいている。
そして、音楽も生で演奏され、その音楽家もダンス(演劇?)の中に組み込まれている。音楽もソリッドな粒子の粒のように不思議な音色で、ホチルドさんの世界観をぐっと深く引き立てる。
そこに、5人のダンサーが登場する。 ダンサーはダンスのようで演劇のようで、フォーメーション(図形)のようであった。
人間が究極的な次元に置かれた時、時にはつながり、阻害しあう。時には同調し調和するが、破壊しあう。
人はなんのために生きるのだろう。生き延びようとするのだろう。
やはり、人は生き延びる、生命の流れとして続いていく、生命時間のような役割を果たすことが、そもそも生命に与えられた使命であり宿命なのだろうか。目的というよりも前提として。 そして、それぞれの運命は異なる。
生き延びるために、脳や感情、すべてを含む身体を与えられているが、人間は必ずしも自分を深く知っているわけではなく、自分をうまく操作できるわけではない。
ただ、人は自然の中では誰もが圧倒的な弱者だから(人が強者だと思っているのは、人類社会がコミュニティーのすべてだと思っている人類の大きな勘違いに過ぎない)、人は一人では生きて行けず、誰かと協力し合う必要がある。生き延びるために。
危機状態で陰画のようにあぶり出てくる人間の本能や本性、そうしたものが身体を通して出てくる様が、ダンスそのものになっているようだった。
途中で、人が死んだときの「喪の儀式」のようなものを感じさせるものがあり、それが自分は深く響いた。
というのも、人間が芸術を生んだ源泉は、「死の体験」からくるのではないかと、常々思っているから。 人生は、受け入れがたいものを受け入れるプロセスそのものだが、それは人間の意識の拡大や成長を促す促進剤であり潤滑油にもなる。
受け入れがたい経験の最も象徴的なものが生命に訪れる「死」という事実で、そこと対峙して生まれてくるものが儀式であり儀礼であり、文化であり文明であり、それはダンスや演劇にもつながるもの。
人間の時間としてのダンス。 場を無意識に支配し方向付けるものとしての音楽、時の流れ。 そして人類を上から見守る時の支配者のような膜と風。
それぞれが適切な距離感を保ちながら、展開していく、神話的な体験だった。多層で同時的な現実世界と神話世界とのクロス。
理性を越えた神話的な時間を体験したい方は、ぜひ。 ほかにもヨコハマダンスコレクションは興味深いものばかり。
横浜赤レンガ倉庫の空間そのものが、異界に誘ってくれます。
分かりやすさ、という合理的な意識の世界でなく、不定形な無意識をこそ強く活性化させる作品。自分は色んなイメージや図形が湧いてきました。
湯浅永麻さん(Ema Yuasa)含め、ダンサーのみなさん、素晴らしかった!
============ 『Futuristic Space』 振付・演出:エラ・ホチルド 美術:大巻伸嗣 音楽:Gershon Waiserfirer 出演:Daisuke Omiya、Ryoji Sasamoto、Ryu Suzuki、Michal Sayfan、Ema Yuasa 日時: 1月31日(木)19:30 2月 1日(金)19:30 2月 2日(土)15:00 2月 3日(日)15:00 会場: 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール http://yokohama-dance-collection.jp/program/program01/ ============
●YOKOHAMA DANCE COLLECTION 2019 2019年1月31日(木)~2月17日(日) 神奈川県 横浜赤レンガ倉庫 http://yokohama-dance-collection.jp/
■Shinji Ohmaki Liminal Air Space-Time 大巻伸嗣《リミナル・エアー スペース - タイム》
P.S.
織り込みチラシに、ハナレグミの永積崇さんとコンドルズの近藤良平さんの『great journey 3rd』のチラシが!
去年行きましたが最高でした。今年も必ず行く!!
参考
●March 29, 2018 近藤良平×永積崇『great journey 2nd』@横浜赤レンガ倉庫1号館 →ハナレグミ、永積崇さんの芸達者ぶりには脱帽しっぱなしだった。底知れぬ才能!!