映画「えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋」(監督:伊勢真一)
「えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋」(監督:伊勢真一)を見た。
とっても素晴らしい映画だった! こういう硬派で地道で本質的な映画を作り続けている人もいるのだ!と、ほんとうに胸が熱くなった。
この映画は、遠藤滋さんの映画であると同時に、遠藤さんが生み出す場所に関する映画でもある。
遠藤滋さんは生まれつき脳性まひがあり、身体が不自由な生活をされている。 ただ、それでも教師の資格を取られた。映画では、脳性まひの人ではじめて教職の資格をとられた方だと言っていた覚えがある。その後、徐々に体が自由に動かなくなり、教職の仕事もやめざるをえなくなり、寝たきり生活になってしまう。
監督の伊勢真一さんは、大学時代の友人でもあった遠藤滋さんの暮らしをフィルムに収め始めた。きっと、強烈に引き付ける「何か」がそうさせたのだろう。
3年間撮り続け、1999年に「えんとこ」という映画に完成させている。
もちろん、その後も、遠藤さんの病状はゆっくりながら少しずつ進んだ。そして、いまもまだ遠藤さんは生き続けている。
今回の映画「えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋」は、前作から20年後、さらにもう一つのドキュメンタリー作品に結実させたおそるべき映画だ。
一人の人物を20年以上追い続け、撮り続け、関心を持ち続ける。それだけの強い磁場が、主役の遠藤滋さんにあったのだろう。そして、それは映画を見れば納得できる。
映画タイトルの「えんとこ」には「遠藤さんのところ」という意味合いもあり、介護者、監督、含め、遠藤滋さんが作り出す場所に惹かれあい、集いあった場所が、ひとつの主題になっている。
遠藤滋さんは、身体が動かなくなってから、短歌を書くようになるのだが(遠藤さんが吐きだす息の音を、周りが読み取り、文章化させて短歌は完成される)、その短歌は、深い深い井戸の暗闇の奥底からにじり出るような言葉で、自分でもよくわからないくらい深い心の場所を揺さぶるものばかりだ。
遠藤さんは完全介護の状態なので、食事も排便も、すべて他人にやってもらう必要がある。 それは、生命をむき出しにして、すべてをさらけ出した状態だ。そこにウソはない。
介護者は、そうした遠藤さんのあり方や、ユーモア性や社会への批判精神など、日々の生き様に大きく影響を受けている。 遠藤さんの周囲には人が自然に集うようになり、介護の手伝いをしている人も、生命の深いところをわしづかみにされ、自分の内面を表面へと提示されるような気持ちになる。
それは、自分も医療者として在宅医療にも関わっているからよくわかる。 相手のケアをして、相手の命と向き合っていると、究極的には自分自身の在り方、生き様、生命観と向き合わざるを得なくなるのだ。 それは不思議なことだ。
互いの命が呼応し始めるとしか言いようがないが、そのためには、少なくともどちらかが、命の通路を相手に開いていなければいけない。ウソではない真実の通路が開いてなくてはいけない。 そして、あらゆる常識や偏見から自由になり、すべてを受け止める態度でなければ、通路は開かれない。
そうしたことは、医療者の態度でも大切なことだ。 自分は写真家の態度とも通じるものがあると思う。
カメラはだれもが手にしている。 ボタンを押せばだれでも写真を撮れる。 ただ、写真のどこで違いがあるのか。それはカメラの値段や機種の違いではない。
きっと、写真家の生き様や在り方、相手との関係性が深く関わってくる。 シャッターを押す側が、どれだけ規範や常識から自由でいるか。その態度次第で、カメラに何が入り込んでくるのか、まるで変ってしまうのだ。
わたしたちは、無意識のうちで多くのものをフィルターにかけて選別してしまっているらしい。そして、大切なものを取りこぼしているようだ。
生命をむき出しにして、1日1日を命がけで生きている遠藤さんの在り方、その生き様を支える周囲のひとたち、そしてその様子を克明に写し取っていく伊勢真一さんの視点、、、 そうした映画の全体を織りなす関係性が、すべて映画の中に入り込んでいると思った。それが素晴らしかったのだ。
人類が生まれて数十万年という時間が流れ、その歴史の中ではあらゆる命が生まれ、死んでいき、そうした繰り返しの果てに今がある。 その中には数えきれないほどの人生が、人類史という全体の中に刻まれている。
遠藤さんの生き様は、特別なように見えて、実はどんな人の中にも、生命の深層では常に起きているドラマではないのか、そうしたことを感じさせてくれる映画です。
壁にぶつかったり、いろいろと悩んでいる人ほど、ぜひぜひ見てほしい映画です!
東京では、7月6日(土)‐26日(金)(午前10時00分〜)、新宿・K’sシネマにて公開されるようです。連日、上映後にゲストと伊勢真一監督のトークがあるようで、とっても豪華。
そのほか、全国各地にて順次公開されるようですので、ぜひ見に行ってください!
こうした映画が、もっともっと多くの人に見られることを、望みます。 この映画は、相模原事件に対する、伊勢監督なりの鎮魂の映画でもある、と、自分は受け取りました。
7/13(土)〜7/26(金) 名古屋 名演小劇場 7/19(金)〜7/25(木) 広島 八丁座 7/20(土)〜8/2(金) 横浜 シネマ ジャック&ベティ 7/27(土)〜8/16(金) 大阪 シアターセブン 8/17(土)〜8/30(金) 京都 京都シネマ 8/17(土)〜8/30(金) 静岡 シネ・ギャラリー 8/24(土)〜8/30(金) 三重 伊勢進富座
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えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋
えんとこの歌メイン激しくもわが拠り所探りきて 障害持つ身に「いのちにありがとう」
「えんとこ」は遠藤滋のいるトコ。縁のあるトコ。ありのままのいのちを生かし合いながら生きる…トコ。
ベッドの上で歌が生まれる。遠藤滋と介助の若者たちとの触れ合い…。25年に及ぶ相聞歌、『えんとこの歌』に耳を澄ませてほしい。
自らを他人と比ぶることなかれ 同じいのちは他に一つなし
監督 伊勢真一 出演 遠藤滋/「結・えんとこ」介助者のみなさん 作品データ 2019年/日本/96分 配給 いせフィルム
〇いせフィルムHP https://www.isefilm.com/