「この辺りのものでござる」 第22回 熊本「万作・萬斎の会」@熊本県立劇場
9月21日土曜は実家、熊本に帰り、第22回 熊本「万作・萬斎の会」@熊本県立劇場での萬斎さんとのプレトークに出させてもらった。
■2019/9/21(Sat)(14:00-):第22回 熊本「万作・萬斎の会」狂言のおはなし&トーク(稲葉俊郎 野村萬斎)@熊本県立劇場(熊本県熊本市中央区大江2丁目7-1) <内容>狂言のおはなし&トーク(稲葉俊郎 野村萬斎),素囃子「神舞」,狂言「蚊相撲」,語「那須与市語」,狂言「博打十王」(→チラシPDF)
熊本県立劇場自体がとっても久しぶりで、こういうクラシカルな雰囲気のホールもいいなぁ、としみじみと。
この場は自分の母校の熊本高校のすぐ近くでもあり、かつ鈴木健二さんが以前、館長をされていた。 鈴木健二さんは、1988年にNHKを定年退職された後、熊本県立劇場の館長として熊本の色んな伝統芸能の再発見に尽力され、熊本の文化に果たした貢献は計り知れない。 清和文楽村なんかも、鈴木健二さんが再発見されたものだ。
そんな由緒ある熊本県立劇場の舞台に出させてもらうのは本当に光栄だ。
萬斎さんとのプレトークでの打ち合わせも、10分くらいのはずが20分にすこし伸びていたが、20分では語りきれないねぇ、と盛り上がりつつ、後は舞台上での即興に任せることになった。 萬斎さんとはあらゆるテーマで話したいことあるから。
萬斎さん、熊本にようこそ!
萬斎さんとのプレトークではいろいろと話したが、一つだけ。
狂言では、「この辺りのものでござる」という前口上がよくうたわれる。
例えば、「あなたは誰ですか?」と聞かれたら、あなたは一体何と答えるだろうか? 名前?仕事?肩書?生まれ?家柄?、、、、??
(このテーマは、2019年7月13日(土曜)『MANSAI ◉ 解体新書 その参拾 特別版『5W1H』』に出させてもらった時雄、野村萬斎さんや真鍋大度さんたちからの問いかけでもあった。(HP)(PDF))
狂言では、「この辺りのものだ」と言うだけで、年齢も性別も家柄も身分も問わない。
いまは多様性、ダイバーシティがとみに叫ばれる時代だが、狂言では室町時代から、未来を走ってるんじゃないかなぁと、思う。 つまり、私たちは「この辺りのもの」くらいの属性で十分じゃないだろうか、ということだ。
今回の演目では蚊(『蚊相撲』)や閻魔大王(『博打十王』)が主役だったり、人間以外のあらゆる生き物、あの世の存在すらも、平等に対等に扱っている。
そして、平家物語や仏教に代表されるように、この世が無常であること、常なる変化の相にいることを受け入れ、身分や生死や時代や自然、すべての変化を受け入れて生きることを前提にしていた。
わたしたちは特別な存在になりたい、特別な存在でありたい、と願うばかりに、頭が生み出したバーチャルリアリティーに体を逆支配され、頭と体は常に混乱している。
「わたしはこの辺りのものでござる」くらいに思えば、自分が思う範囲の「この辺り」をよりよい環境にしようと思えるし、僕らができることもそれくらいでいいのではないだろうか。 その小さい輪を少しずつ拡大させればいい。
千利休も、茶室内での絶対平等を説いたし、世阿弥も上下の支配からの自由を説いた。 同じ地平での彼らのステイトメントは響き合っている。
能が死の平等を解き、狂言は生の平等を解く。
政治や権力にからみとられないよう、精妙な美の覆いで芸術の魂を守るようにしながら。 現代人が新たな視点で眠れる魂を発見すれば、現代にまた孵化し蘇生するだろう。
素囃子「神舞」では、人間技を超えた高速のリズムで音がかけあい、破綻するギリギリのラインで100メートル走を競い合うような素晴らしい演奏だった。 名作、狂言「蚊相撲」での野村裕基さんは、安定感のある演技。 万作さんの「那須与市語」も名人芸。 萬斎さんの狂言「博打十王」は、ストーリーも奇想天外で、常識を何度も転覆させる内容と、そのせかいにグイグイ引き込む演技はやはりすごかった。
今回は、野村裕基さん、萬斎さん、万作さんと三世代で全員が出演する舞台で、本当に感動だった。
ぜひぜひ熊本にまた来てください!
今度は面白い我が実家にもみなさんで遊びに来てください!!(^^