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市来広一郎『熱海の奇跡』東洋経済新報社 (2018)

市来広一郎さんの『熱海の奇跡』東洋経済新報社 (2018)、色々と勇気づけられる素晴らしい本だったなぁ。

 

<内容紹介> 大前研一氏、木下斉氏推薦! 「衰退した観光地」の代名詞となっていた熱海はなぜ再生できたのか

Uターンしゼロから街の再生に取り組んだ著者を通して見えてくる、人口減少時代の魅力ある地域づくりのあり方。

◆推薦の言葉

大前研一

「単年度予算で動く行政を民間が補完して町の魅力作りを長期的に推進する格好のモデル。著者が代表を務め、熱海を活性化しているNPO法人atamistaの実績から多くのヒントが得られる」

木下 斉

「この本は地元に戻り、仲間と小さな事業を立ち上げ、成長させることが、まちの再生に繋がることを教えてくれる。読み終えたら、多くの人が挑戦したくてウズウズするだろう刺激に満ちた一冊だ」

◆著者の言葉

この本では、熱海で私たちが培った経験を、可能な限りお話ししました。 ビジネスの手法でまちづくりをすることは、熱海だけに使えるやり方というのではなく、日本全国どこの地域でも使えると思うのです。 なぜなら、かつての熱海の衰退は、日本全国の地方の衰退と同じ構造で起こったからです。(プロローグより)

著者について 市来 広一郎(イチキ コウイチロウ) 株式会社machimori代表取締役。NPO法人atamista代表理事。一般社団法人熱海市観光協会理事。一般社団法人ジャパン・オンパク理事。一般社団法人日本まちやど協会理事。1979年静岡県熱海市生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)大学院理学研究科(物理学)修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に勤務。2007年熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地再生のための活動「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流プログラムを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市と協働で開始、プロデュース。2011年民間まちづくり会社machimoriを設立、2012年カフェ「CAFE RoCA」、2015年ゲストハウス「guest house MARUYA」をオープンし運営。2013年より静岡県、熱海市などと協働でリノベーションスクール@熱海も開催している。2016年からは熱海市と協働で「ATAMI2030会議」や、創業支援プログラム「99℃」なども企画運営している。

 

熱海は、日本一の保養所であり養生所だったはずなのに、バブルを境に大型のホテルがバタバタとつぶれてしまう。 この光景が、現地に住んでいる人たちの心へと作用した影響は計り知れないと思う。

戦前は『家』を守るため、戦後は『会社』を守るために日本の社会は頑張っていた。 ただ、『家』も『会社』も、時代の急速な変化と共にあり方が変わった。急激な変化に対応できないのはある意味では当然だ。わたしたちでさえ、その急激な変化の本質(不易流行)が理解できていないのだから。

会社全員での社員旅行を引き受けるために巨大な旅館が必要だったけど、時代の変化で巨大な旅館は逆に維持費や管理費がかかるものとなった。

そうした風景が、熱海の人たちの心を痛めつけただろう。自分も、巨大旅館が解体もできないまま廃墟が立ち並ぶ風景には心痛むものがあった。

--------------------------- 「観光客のもとめるものが、かつてのような団体客による宴会接待型から、今では個人や家族による体験・交流型に変化した」 --------------------------- と書いてあり、まさにこのことを明確に意識したことが、はじめの一歩として大事だったのだろうと思う。

作者の市来さんも、子どものころに熱海で生まれ、そうした風景に心を痛めていたと思う。しかも、それはかなり深い無意識に作用していたと思う。 東京に出てIBMに勤めたが、その後熱海へとUターンして熱海の再生に取り組まれる。 その過程は、本当に一言では語りつくせないもので、こうして200ページ近い本を読んで、こんなにも長い長い行程の中で、今の熱海の復活があるのか、と、驚いた。

もちろん、市来さんの人間性もあり、この本では自分一人の功績を威張ることは微塵も書いていない。色々な登場人物が現れて、その群像劇のドラマとして、市来さんが狂言回しのような語り部のようにも見える。 いま、熱海は温泉街を超えて、行ったらなんだか楽しい場所、になっている。そもそも、熱海は温泉の泉質が素晴らしいのだから。これは地球のエネルギーだ。

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「やはり、温泉観光地の復活は、格安で人を呼ぶのではなく、街の魅力を高めることが本筋ということだと思うのです。」 ---------------------------

「まちづくりとは不動産オーナーこそがすべき仕事」 ---------------------------

「リゾートとは本来、「再び行く場所」という意味です。 再び、「何度でも行く場所」としてのリゾートして選ばれる街になるためにこれからがスタート、そう思っています。」 ---------------------------

リゾートのもともとの意味は、「再び行く場所」、というのにも膝を打った。 熱海に行ったとき、ああ、また来たいなぁ、と思った。

→<参考>Photo:Atami

→<参考>●熱海(May 2, 2017)

そうした気持ちになれる事こそがリゾートの地なのかぁ。 そう考えると、自分の中のリゾートは何個もあるなぁ。

第9章のまとめの中に、 ---------------------------

「上の世代があったらしい世代への世代交代を後押しした」 「まちづくりに成功やゴールはない。常に先を見据えて今とれる打ち手を打つ。」 --------------------------- とあった。

どんな人にでも、上の世代があり、下の世代がある。 わたしたちは、常に上と下の世代のつなぎ目だ。

そうした思いさえ持てば、上の世代が成し遂げてきたことへの敬意を持ち、上と下の間の世代の自覚をもち、時代の中で変化させるべきところは変化の責任を担う。 そして、下の世代へと、新しい可能性と共にしっかりと託していく。

まさにこういうサイクルこそが、街を生命体のように生き生きとさせるコツなのだろう。

市来さんとは何度か直接話させてもらったが、穏やかなのに長期的なビジョンを持っていて、頭はクールで、それでいてハートは熱い方だ。 うまく働けなくて困っているスタッフも、見捨てずに、優しいまなざしをかけ続けている方。自分も相談を受けたが、むしろ市来さんの姿勢に、ケアの本質を自分が教わるようだっで恐縮した。本当に徳の高い方だなぁ、と思っていた。

市来さんのご活躍はいろいろと聞いていたが、こんなにも地道に失敗と成功とを掛け合わせながら少しずつ歩んできた方だとは思わず、とても感動した。

本書の中で、商店街を歩行者天国にしようというアイディアのとき、全員の合意形成がとれなかった、と。 確かに全員一致は難しいだろう。

結果、まずチャレンジしてみる。もともと反対意見だった人にはちゃんと謝りに行こう、と。こういう考え方や行動力や人間性こそが、すべてを物語っているなぁ、と思いました。

各章の最後にまとめが書いてあって、何らかの「街づくり」に携わっている人たちには大いに勉強になる最良の教科書じゃないかな、と思った。

自分も、新しい医療は「街づくり」のプロセスと共にある、と思っているので、とても参考になり、大いに勇気づけられる本でした。

 

(2017年の時の熱海の写真から)

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