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イスラエル・ガルバン『春の祭典』@KAAT(神奈川芸術劇場)

KAAT(神奈川芸術劇場)にて、イスラエル・ガルバン『春の祭典 』のダンスを見に行く。


丁度その日は、第26回日本緩和医療学会学術大会の招待講演でお呼びいただいており、パシフィコ横浜辺りを久しぶりにうろついていて、ちょうど同日にKAATですごい企画があったので見に行きました。








イスラエル・ガルバンは、フラメンコをベースにもっているダンサーで、しかもフラメンコの概念を常に革新させるような動きをしてきた人だ。


自分も、大学生の時にフラメンコを2年間習っていた時期がある。

そのきっかけは、ダリとガウディを見にスペインまで行ったときのこと。夕食をレストランで食べていたら、そこはかなとなくフラメンコギターが聞こえてきて、音に呼応して、足の悪いおばあさん(80歳くらい)が、椅子にすわりながら情熱的にフラメンコを踊っていた。その姿に、地鳴りか地響きのようなエネルギーを感じ、フラメンコの世界にとりこまれてしまい、自分も踊りたい、と思ったからだ。


フラメンコは、踊りに型がある。型を逸脱するようにして、足踏みや手拍子など、全身を楽器のようにしてさけびながらうなりながら踊るのが特徴で、人間自体が海の波のように見えて素晴らしいのだ。たましいの核から発されるエネルギーに身を委ねている気がする。


イスラエル・ガルバンの踊りは、まさにそういう踊りを体現した人で、踊りという概念よりも、体から発されるあらゆる音を、極小から極大まですべてすくいとり、その音の連鎖を体の動きへと変換し、またそれが音へと変換され、、、という、無限ループのような世界(究極のエコシステムのような世界)をひとりで立ち上げていく人だった。


そして、そこに人類史が透けて見える。どんな時でも立ち上がり、前を向いて生きていく人間の強さや逞しさ、野生、そうしたものを演者と観客とが非言語で交換しあうような舞台だった。



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もともと、ストラビンスキーの「春の祭典」は、大地から消え果てしまったと思われる植物が、不可視の力で春に立ち上がってきて、それが人間を生かす命のエネルギーとなり、そうした植物の生死と個の人間の生死や、種の人類としての生死までもがわかちがたくつながっている。そうした生命のリアリティーの深層を、不可思議と歓喜をカオスと秩序へと変容させたような楽曲(かつ、常に再解釈させる余白を含んだ作品)なだけに、イスラエル・ガルバンの踊りは、生命の謎を多分に含んだ歓喜の身体表現だった。



『春の祭典』はニジンスキーが、ストラヴィンスキーの音楽に振付けしたバレエ作品。

伝説のダンサーであるニジンスキーの晩年の悲劇、「ニジンスキーの手記」(新書館 1996)を読んだ時、衝撃でした。





ニジンスキーが踊りの極限の世界まで行き、「神との結婚」の公演を最後に、精神病院に入院してバレエ界から突然引退し、その後は一切踊れなくなります。映像も一つも残っておらず、だからこそ彼のダンスは記憶の中にしか残らない現代の伝説としても残っています。


自我が壊れていく時に数週間で書かれた手記は、読み手が正気を保ちながら読むのが難しいほどに、混乱・困惑した世界がそのまま記述されていて、衝撃でした。あらゆる言葉が混沌として彼を襲い始め、自我の境界が壊れていくのです。


能楽では面をつけますが、あの行為は、そうした別人格が憑依したり元型(影)がおそってくるのを避けるための重要な儀式でもあると思うのです。ニジンスキーのように生身の肉体で最後の舞台となった「神との結婚」の世界を素直に極限まで探求したところ、こちらの世界に戻って来れない領域に到達してしまったんだと思います。そういう意味で、能楽や神道含め、儀式の中に、異界との融合・分離のための知恵があるのだと、自分は思います。そうした知見は医学的にも重要なことだと思うのです。

ストラヴィンスキーが「春の祭典」を発表した時も、当時のクラシック界を二分して議論を巻き起こすほど前衛的だった作品です。




 



人が体を動かす、というのはすごく単純なことなんですが、やはり常人は、体の可能性をほとんど引き出せてないんですよね。ダンサーや武道家は、そうした総合的な体の動きをここでもか、ここでもか、と引き出し続けている人たち。そういう人たちと出会うだけでも、体の可能性を広げてくれます。そして、まだまだやることがたくさんあるなぁ、人生は学びと発見と驚きの連続だなぁ!と思わせてくれます。



「春の祭典」だけではなく、「ピアノディスタンス」(音楽:武満徹)、「バラード」(音楽:増田達斗)の音楽もピアノも素晴らしいもので、この音楽の構成をしている人は本当にセンスがいいなぁ、と思ったら、笠松泰洋さんだった! 笠松さんの芸の広さと深さにも、驚いたものです。



浅い物語に支配される昨今。

人間や人生の深さを知る人たちが邂逅して作り上げる、深さこそが、いまという時代には本当に必要だと思います。


とにかく、すごい演目でした。


愛知では6/23+6/24に。

イスラエル・ガルバン『SOLO』は6/28+6/29に横浜市役所1Fアトリウムで行われるようですので、ぜひ会いに行ってみてください!








 

イスラエル・ガルバン『春の祭典 』

出演:イスラエル・ガルバン、片山柊、増田達斗

演目:春の祭典(音楽:イーゴリ・ストラビンスキー)、ピアノディスタンス(音楽:武満徹)、バラード(音楽:増田達斗)

HP





『春の祭典』

【神奈川公演】

◎開催日程

2021年

6月18日(金)18:30開演

6月19日(土)14:00開演

6月20日(日)14:00開演

※ 上演時間:約70分/途中休憩なし

◎会場 KAAT神奈川芸術劇場

◎主催・お問合せ Dance Base Yokohama

【愛知公演】

◎開催日程

2021年

6月23日(水)18:30開演

6月24日(木)14:00開演

※ 上演時間:約70分/途中休憩なし

◎会場 愛知県芸術劇場 コンサートホール

◎主催・お問合せ 愛知県芸術劇場

『SOLO ソロ』

◎開催日程

2021年

6月28日(月) 18:30開演

6月29日 (火)18:30開演

※上演時間:約45分/途中休憩なし

◎会場 横浜市役所1Fアトリウム(神奈川県横浜市中区本町6-50-10)

◎申込 DaBY Peatix

◎主催・お問合せ Dance Base Yokohama




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