僕は岩だ。でも大丈夫。今ここに、太陽が昇るから。
『今こそ永遠』(FM軽井沢)の3回目は、季節の変わり目と体や心に関する話でした。
●【radio】2021/3/28(Sun)(AM10:30-10:55):「今こそ永遠」(FM軽井沢 77.5MHz)(メインパーソナリティー:稲葉俊郎)(番組Facebookページ)(毎月最終日曜日(AM10:30-10:55))(FM軽井沢)
冬から春への移行期に、体は変化します。 硬い体が開かれて行きます。毛穴も開くし、骨も開いていきます。
この時期はよく体の不調を訴える人も多いのですが、全身で身体の変化を感じることが大事だと思います。
体にも春夏秋冬があり、そうして変化を巡りながら自己調整します。
冬は、そうして体も心も内省している時期です。
冬を秋の結果として考えることもできますが、冬を春の準備としても考えることができます。
春という目的のために、冬がある。
春を迎える貯めには、冬の時期を経なければいけない。
体や心は開かれるために、閉じる時期が必要です。 心の病も似たところがあります。
心は開かれるために閉じる必要があると、見通しを持つことが大事です。
本人に心の余裕がない時は、周りがそうした見通しを持って、待つ必要があります。
待つことは一般的に大変です。
ただ、たいていは待てません。こちらが勝手に代弁してみたりします。
待つ側にも、待つ力が必要なんです。
抑うつ状態では、心のエネルギーが内向きになっていて、外に出れなくなっている状態です。
水が地下だけを地下水として流れていると、表にある畑には水が潤いません。いづれは、井戸を介して地下水を表に汲み上げる必要があります。どんな人の心にも、そうした時期が必要なんです。
心の病は誰にでも訪れるもので、誰にでも可能性があります。
たとえば、統合失調症という病気も、100人に1人くらいと言われています。自分がそうでなかったとしても、偶然でしかありません。
そうした心の病気を抱えた人も、共に生きやすい社会をつくることが大事ではないでしょうか。
「弱さ」こそが、人が集う社会の原点だと思うのです。
「強さ」を中心にするのではなく、「弱さ」を中心にした社会の方が、変化にも強く、柔軟でしなやかな社会ではないかと思います。
FM軽井沢の1曲目でご紹介した曲は、ポール・サイモンの「アイ・アム・ア・ロック」(I Am a Rock)(1966年)でした。
まさに、自分が岩のような心の状態になった時を歌っています。
●I Am A Rock, Paul Simon Songbook 1965
I Am A Rockは、文字通り「僕は岩だ」という意味です。
サイモン&ガーファンクルは『水曜の朝、午前3時』(Wednesday Morning, 3 A.M.) (1964年)という1stアルバムでデビューしたのですが、当時は全く売れなかったようです。
ポールは・サイモンヨーロッパ放浪の旅へ出て、アート・ガーファンクルも建築系の大学院へと戻ってしまいました。
ポール・サイモンが深い絶望と失望と共に、イギリスでソロ活動していた頃に発表したソロ・アルバムがあり、それが『ポール・サイモン・ソングブック』(1965年)というアルバムです。当時、イギリスだけで発売されました。
その後、プロデューサーが、「サウンド・オブ・サイレンス(The Sound of Silence)」にエレキギターやドラムなどを加えてロック調にアレンジしてシングルで発売したところ、1966年(デビュー2年後)に全米1位の大ヒットとなったのです。その後、1966年に「アイ・アム・ア・ロック」も再度シングルカットされて、大ヒットしています。
ただ、今回自分がお薦めしたいのは、大ヒットしたアレンジバージョンではなく、最初のソロバージョンとしての「アイ・アム・ア・ロック」"I Am a Rock" (1965年版)です。
『ポール・サイモン・ソングブック』(1965年)に収録されています。
このアルバム、不思議なことに日本では、「Simon Before Garfunkel」というタイトルで1969年にリリースされましたが、なぜか日本だけの発売でした。ポールサイモンは当時、あくまでもアメリカでの発売を拒みました。アメリカでは、2004年にCDとしてリリースされるまで発売されなかった、という面白い経緯の作品です。
おそらく、この曲がすごく内向的な曲なので、外交的な国であるアメリカでは正しく受け止められないと判断したからなのでしょう。
ただ、人間の悩み、苦悩、内向的な心の向きというのは、人種や国境を越えて普遍的なものではないかと思うのです。
「アイ・アム・ア・ロック」"I Am a Rock" (1965年版)の和訳を紹介します。
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"I Am a Rock"
by Paul Simon
A winter’s day
In a deep and dark December
I am alone
Gazing from my window
To the streets below
On a freshly fallen, silent shroud of snow
I am a rock
I am an island
12月の、
冬の深まったある暗い日
僕は一人だ
いま積もったばかりの、静かな雪景色を
窓からじっと見つめていた
僕は岩だ
僕は島だ
I’ve built walls
A fortress, steep and mighty
That none may penetrate
I have no need of friendship
Friendship causes pain
It’s laughter and it’s loving I disdain
I am a rock
I am an island
僕は壁を作った
何者も通さない
険しく強い要塞だ
友情は要らない
友情は苦しさしかない
それは僕が軽蔑する笑いや愛なんだ
僕は岩だ
僕は島だ
Don’t talk of love
Well, I’ve heard the word before
It’s sleeping in my memory
I won’t disturb the slumber
Of feelings that have died
If I never loved, I never would have cried
I am a rock
I am an island
愛について語らないでほしい
前にも聞いたことがあるフレーズなんだ
記憶の底で眠っている。
死んでしまったその気持ちを
蘇らせるつもりはない。
愛さなければ、泣くこともないんだから
僕は岩だ
僕は島だ
I have my books
And my poetry to protect me
I am shielded in my armor
Hiding in my room
Safe within my womb
I touch no one and no one touches me
I am a rock
I am an island
僕は自分を守るための
本や詩がある
僕は鎧で守られている
自分の部屋に身を隠し
安全な母性的な空間の中にいる
僕が誰とも関わらなければ、自分には誰も関わってこないんだ
僕は岩だ
僕は島だ
And a rock feels no pain
And an island never cries
岩は痛みを感じないから
島は泣いたりしないから
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人はだれしも、岩のように心を閉じることがあります。島のように孤独を感じることがあります。
ただ、それは何かの準備ではないかとも思います。
そして、そういう時こそ、個人的な内部の安全な空間の中で(Safe within my womb)、何かを孵化している大切な時期だと思います。
周囲も、心房強く、待つ必要があります。
待つことにも、力がいります。待つ力が必要です。
冬は秋の結果で、同時に春の準備。
個人の心に訪れる冬もそうですし、社会に訪れる冬も同じだと思います。
FM軽井沢でのラジオ2曲目の最後は:Here Comes The Sun(収録アルバム:ビートルズ『アビイ・ロード』、1969年)作詞作曲:ジョージ・ハリスン)を紹介しました。
ビートルズ12作目のオリジナル・アルバム、『アビイ・ロード』(Abbey Road)(1969年)の中の、アナログB面の1曲目。ジョージ・ハリスンの名曲です。
長く続いた寒い冬だった。
でももう大丈夫。
太陽が昇るから。
雪は溶け、君の顔に微笑みが戻る。
そしてすべてはうまくいく。
今ここに、太陽が昇るから。
こういう曲です。
冬の時代も、いつか太陽が昇ります。春が来ます。
今の時代に対しても今の社会に対しても、そうした長い見通しをもって、日々を過ごしていきたいです。
●Here Comes The Sun (Remastered 2009)
1曲目:I Am a Rock(収録アルバム:『ポール・サイモン・ソングブック』(The Paul Simon Songbook))作詞・作曲 ポール・サイモン
2曲目:Here Comes The Sun(収録アルバム:ビートルズ『アビイ・ロード』、1969年)作詞作曲:ジョージ・ハリスン
P.S.
通常版の【I Am A Rock】も、名曲ですよ。
●Simon & Garfunkel - I Am A Rock
●Simon & Garfunkel - I Am A Rock (Live Canadian TV, 1966)
Paul SimonとGoerge Harrisonが【Here Comes The Sun】を歌う!映像もあるし、Nina Simoneもカバーしてます。天才同士は魂の底で共鳴するんだなぁ。
●Paul Simon & Goerge Harrison- Here Comes The Sun
●Nina Simone- Here comes the sun
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