広報かるいざわ5月号「対話がひらく未来」
今年度からの広報かるいざわは、「対話」をテーマにします。
「いのちは のちの いのちへ」(アノニマスタジオ)でも対話を色々な角度から掘り下げましたが、創造的な対話こそが、時代を突破する鍵になると思っています。
第一弾は、世界に一つの「おくすりてちょう」を一緒に作った、尊敬するデザイナーでもある須長檀さんです。
広報かるいざわ5月号
「対話がひらく未来」
稲葉俊郎×須長檀
軽井沢病院にも対話の全ロングバージョンも載せています。ぜひこちらもどうぞー。
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稲葉:やはりRATTA RATTARR(ラッタ ラッタル)さんの活動で素晴らしいと思うのは、そこに絵具があり、キャンバスがあり、紙があり、人間の創作意欲が一番引き出される環境や前提の作り方が素晴らしいと思うんですね。誰もが創造性を引き出せる場所と言いますか。でも現代社会は忙しすぎたり場所が無かったりして、その初期条件にセッティングするまでの余裕がないんですよね。
須長:そうですね。
稲葉:あまりにも合理的に世界がなり過ぎたせいで。創造を生み出す余白がないんです。
だからそうした適切な場の設定で人間のよりよきクリエイティビティが目覚めるのであれば、そうした場の初期設定こそが実は現代社会に欠けていて必要なものなのかな、と、現場を見学させてもらって改めて思いました。
須長:私たちもどうしてこんなことが出来るんですか?とよく聞かれますが、基本的にはおっしゃった通りで、空間と時間さえあれば出来てしまうんですよね。それは、稲葉さんもお知り合いかと思いますが、Noism(ノイズム)という舞踊団のリーダーでもある金森穣さんがダンスの世界で実践されていると思います。専属のレジデンシャル・カンパニーを作り、同じメンバーが毎日同じ場所でトレーニングをする。そうした場所と時間をつくることが何よりも一番重要なんだという話をされていました。
僕もその考え方にすごく影響を受けていると思います。やはり始めるならば、場所と時間を確保して作ることが大事だ、という言葉は指針になりましたね。
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稲葉:医療とアートやデザインや福祉。今回、そうした垣根を超えて何か一緒に作りたい、という話の中で、「お薬手帳」へと結実していったプロセスを教えてください。
須長:まず、お会いして稲葉さんが書かれた著作を全部読ませていただきました。医療に対する考え方、芸術に対する考え方、そもそも医療や医師というかたちにこだわらず、もっと大きな視点で捉えられている姿勢をすごく感じたんですね。あと、雑談の中で、今抱えている医療現場での問題点などを伺う中で、アートやデザインと治癒や治療がどう結びつくのかは分からないですが、少しでも助けとなれるきっかけをいただけたな、という気持ちもありました。そうした中で、不特定多数の方にちゃんと配られて、病を持っている方へ渡すもの、そこに小さな芸術の何か種みたいなものを発見してもらえたら、と考えて、お薬手帳のアイディアにつながりましたね。
稲葉:病院や医療にまつわるような色んな物がありますよね。その中でお薬手帳はちょうど中間地点のようなものだとも思うんですね。手帳は病院内で完結するものではなく、薬局や複数の病院も含め、家庭の中でもいろいろな場所を行き来するものです。それだけ日常的に見るものでありながら、デザインとしても、意味としても軽視されている気がしました。薬剤師からもお薬手帳を持ちましょう、と声がかかりますが、やはり管理型の発想が見え隠れするので、管理されたくないと思う人もいるわけです。お薬手帳を新しく作ろうという案に辿り着いた時点で、お薬手帳の価値観をひっくり返せる可能性を感じて、色んなインスピレーションが湧いてきたんです。
須長:うん、うん。
稲葉:わたしは、薬は医者が処方するもの、という固定観念の構図が嫌だったんですよね。例えば友達同士や家族の中でアドバイスをしたりして、それは言葉の「くすり」だと思うんですね。処方されるカプセルや錠剤だけが薬なのではなくて。そうした固定観念を壊したいな、とずっと思っていたんですが、この「おくすりてちょう」の実物を見た瞬間に、まさにそうした常識を超える可能性があるなと直感的に思ったんです。「おくすり」と平仮名だったこともよかったんです。もちろん、須長さんが何を想像して作ったのかは知らないんですが。 (笑)
須長:いえいえ、そんな想像はまるでしてなかったです。(笑)
稲葉:ずっと自分が抱えていた課題を一気に解決しようというインスピレーションが下りてきた感じですね。実物の存在感から、インスピレーションがわき上がったんです。
須長:僕は、そういう風に「お薬」の概念をバッと広げたアイディアを聞いたときに、なるほど!そういう風に捉えられるんだ!と、凄く面白い発想だと思いましたね。
稲葉:病院だけではなく、軽井沢町が抱える課題も、「おくすりてちょう」が町中を行き来する中で、同時に解決出来るんじゃないかと思ったんですよね。
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