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後藤美月『色いろ形 わたしのカタチ展』@東御市梅野記念絵画館

  • 執筆者の写真: inaba
    inaba
  • 1 日前
  • 読了時間: 4分

東御市梅野記念絵画館で行われている後藤美月さんの『色いろ形 わたしのカタチ展』はとても面白い展示だった。もっと多くの方に訪れてほしい。(山の上で、車がないと行けないかもしれない。)



一室だけの展示。だからこそ子どもと家族と、対話を目的に行ける展示になっている。









東御市では対話型絵画鑑賞を小中学校で行っている。

対話型絵画鑑賞では、真の意味で絵と対峙する。


一般的な展覧会では展示数も多く、一つの絵をほんの数秒しか見ることができない。

そうではなく、15分ほど絵を見る。

ディテールまで。穴があくまで。書き手の息づかいがこちらに届いてくるまで。

そして、そこで得た発見を共に対話すると、お互いの未知の視点が交換される。他者の視点を得ることは、他者をより深く理解することに通じる。








ちょうど私は、トマ・シュレセールさんの『モナのまなざし 52の名作から学ぶ人生を豊かに生きるための西洋美術講座』ダイヤモンド社 (2025/3/26) と言う本を読んでいた。

この著作は、視力を失いつつある10歳の少女を祖父がルーブル、オルセー、ポンポドゥなどの美術館に連れ出す。そこでひとつの絵画を15分じっくり鑑賞し、感じたことを祖父と交換し合いながら、少女がこの世界により深い色どりを発見していく、という異色の西洋美術本だ。



 

■『モナのまなざし』

著者:トマ・シュレセール

訳者:清水玲奈

発売日:2025年3月26日

発行:ダイヤモンド社





■目次(一部抜粋)

プロローグ 何も見えない

第一部 ルーヴル美術館

ボッティチェリ 受け取るという美学/レオナルド・ダ・ヴィンチ 人生に向かってほほえむ/レンブラント 自分を知りなさい/ヨハネス・フェルメール 無限に小さいものは、無限に大きい/フランシスコ・デ・ゴヤ 怪物はどこにでもいる

第二部 オルセー美術館

ギュスターヴ・クールベ 大声で叫び、まっすぐ歩く/ローザ・ボヌール 動物は尊く気高い/クロード・モネ 万物は流転する/ポール・セザンヌ 行け!闘え!今だ!

第三部 ポンピドゥーセンター

ヴァシリー・カンディンスキー 精神を追求しよう/ルネ・マグリット 無意識の声を聴こう/パブロ・ピカソ すべてを壊さなければならない

エピローグ 人生は冒険


 




私も、本にある絵を15分ほどじっくり見て文章を読んでいるので、読書は遅々として進まない。

だからこそ、この1か月は毎日のようにこの本を読んでいたので、後藤美月さんの『色いろ形 わたしのカタチ展』も深く感じ取れる展示だった。



後藤美月がミシマ社から出している『おなみだぽいぽい』という絵本の原画を見て、絵本の世界に入り込むように感情移入する。小さい展示空間で混雑もしていないので、家族でじっくりと語らいあいながら。感じたことを自由連想のようにしゃべりあいながら、素敵な原画の中を歩く。









私たちは、生きているだけで色々なものがInputされて飛び込んでくる。そうして入り込んできたものは、おそらく同じくらいOutputする必要がある。それは表現でもあるし排出でもあるし排泄という生理的な行為でもある。息を吸ったら吐くように、水を飲んだら小水として排泄するように。わたしたちは取り込んだものと同等くらい吐き出さないとと、取り込んだものに良くも悪くもハッキングされる気がする。



実際、私の子供は、ウルトラマンで遊んだ後、機関銃のようにウルトラマンの話をしてくる。私はじっと聞き続ける。評価せずジャッジせず。ただ受け入れ、気が済むまで語り表現してもらう。 そこには聞いてくれる他者も必要だし、同時に受け取ったものを排出しながら、受け取ったものの磨いて本質的な核を取り出しているようにも見える。体の中を調律するようにお掃除して整えているようにも見える。子どもの自然状態が生み出すメカニズムから大人が学ぶことは多い。











映画館では「しーーーー!静かに!」、美術館でも「しーーー!静かに!」、という空間だ。だからこそ対話型鑑賞では、じっくり受け取ったものを差し出して吐き出していいよ、という声の空間だ。見て感じたものを、語り表現し共有し対話しましょう、ということは。実は当たり前のことを当たり前にできる空間を準備している、ということなのかもしれない。



「あ!鳥の声が聞こえた!」「あ!花が咲いている!」。周りの人に声をかけるときがある。共感を求めながらも、同時に自分が受け取った何かを、吸った息を吐くように言葉で呼吸しているのかもしれない。


東御市梅野記念絵画館には、明神池もあり、散歩がとても気持ち良い場所。近くには温泉もある。芸術、散歩、温泉。こんなに贅沢なトライアングルはあるだろうか。(いや、なかなかないものだ。)





東御市梅野記念絵画館

所在施設: 芸術むら公園

〒389-0406 長野県東御市八重原935-1





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